総合内科医のよもやま話

総合内科専門医。ちょっと気になった事を調べて、まとめてみます。ちょっとした医学小ネタと思ってください。

交通外傷に注意な血液型は?

【背景】

救急外来に交通外傷の患者さんが搬送されてきました。

上司が、「よかったね、この人は助かりそうだよ。O型は予後が悪いからね。」、と言っていました。

なぜ???

 

【疑問】

交通外傷においてO型は予後が悪いのか?

 

【答え】

外傷では出血リスクからもO型の予後が不良な傾向であるが、鈍的外傷ではAB型の予後も不良かもしれない。

 

【説明】

そもそもそんなマニアックな話をまとめている文献などあるのだろうか、、、。

検索をしてみると、気になる文献が2つ検索されました。

文献①:The impact of blood type O on mortality of severe trauma patients: a retrospective observational study, 2018.

 元論文はこちら👉https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5930809/pdf/13054_2018_Article_2022.pdf

この論文は2018年に発表された日本の論文で、2つの三次救急センターでの症例を後ろ向きに観察研究しております。患者数は901人と結構な人数で検討されています。ABO 血液型は止血に大きな影響を与えるが、出血は外傷患者の主な死因でもあるため、後ろ向き観察研究で予後を評価した研究です。

この背景情報の背景には、O型ではvon Willbrand因子が25-30%少なく、出血リスクが高いという報告が元になっているようです。

 

対象患者は、傷害重症度スコア≧15の患者です。

除外基準は15歳未満、病院到着時心停止、生存不能な損傷を負っている、抗凝固薬/抗血小板薬内服中の4点としたようです。

傷害重症度スコアなるものは、あまり総合内科医には耳慣れないスコアではありますが、市立砺波総合病院のHPに分かりやすく載っていました。

HPはこちら👉外傷における重症度評価と予後予測 |救急部 集中治療・災害医療部|診療科|診療科・部門のご案内|市立砺波総合病院

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また、AISのコードに関するザッとした例は厚生労働省のHPにありました。

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15点になりそうなものは、頭蓋骨の単純骨折+肋骨2本骨折+大腿骨解放骨折で17点になります。

確かに重症感が強いです。

割り付けられた患者の血液型はO型は284人(32%)、A型は285人 (32%)、B 型は209(23%)、AB型は123人(13%)でした。

 

主要アウトカムは院内全死亡(原因問わず)

副次アウトカムは、原因別の院内死亡率、非人工呼吸器使用日数、輸血単位数

としたようです。

 

結果としては、

O型は全死亡に対する調整後オッズ比は2.86

 失血死に対する調整後オッズ比は2.55
・有意差はないものの、他の血液型に比してO型では輸血単位数が多い傾向

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確かに、O型は院内全死亡率が高い事が示されています。

 

また、著者たちは2021年に、12施設で2008年〜2018年の10年間で再度データを取り直してもいます。

文献②:The impact of blood type on the mortality of patients with severe abdominal trauma: a multicenter observational study, 2021.

 元論文のPDFはこちら👉https://www.nature.com/articles/s41598-021-95443-3.pdf

 

割り付けられた患者の血液型はO型は288人(31%)、A型は345人 (38%)、B 型は186(20%)、AB型は101人(11%)と少し変わりましたが、結果としてO型が院内全死亡率が高かったです。

こちらの方が、A型が40%、O型が30%、B型が20%、AB型が10%とされる日本人の一般人口に比率も近い印象です。

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では、海外の報告はどうなっているでしょうか。

文献③:The association of ABO blood groups and trauma outcomes: A retrospective analysis of 3779 patients, 2021.

 元論文はこちら👉The association of ABO blood groups and trauma outcomes: A retrospective analysis of 3779 patients - PMC


こちらは、単一施設ですが、3779人もの患者で評価をしております。

一方で、患者背景をみると、ISSの中央値が10程度であり、日本の報告よりも比較的軽症である事が分かります。

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また、日本と違い鋭的損傷と鈍的損傷を分けて死亡率を評価しております。

まずは、鋭的損傷ですが、やはりO型の予後不良が示されております。

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一方、鈍的損傷ですが、ここまで一貫して予後良好であったAB型の予後が不良という結果になりました。

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DISCCUSIONでは、鋭的損傷は出血、鈍的外傷は凝固異常との関連が示唆され、かえって凝固因子が十分にある事が鈍的損傷によるAB型の予後を悪化させる要因ではないかと記載されている。

 

 

現時点では、出血リスクを加味して考えると、外傷によるO型患者の予後不良という事は揺るぎがなさそうであるが、鈍的外傷など状況ではAB型の予後が不良になる可能性もある。

僕はA型なのですが、僕はある意味どっちでもない存在のようです。

本研究は外傷ですが、手術やお産などでも同様の検討がなされていそうな気もします。

また、時間があれば探してみたいと思います。