総合内科医のよもやま話

総合内科専門医。ちょっと気になった事を調べて、まとめてみます。ちょっとした医学小ネタと思ってください。

論文読解:SGLT-2阻害薬と筋萎縮の関係

【きっかけ】

第29回日本病院総合診療医学会に参加した際に、ランチョンセミナーでSGLT-2阻害薬に関するレクチャーを聞きました。

SGLT-2阻害薬は糖尿病薬としての立ち位置だけではなく、CKDや心不全でも予後改善を示されているため様々な場面で登場する薬剤となりました。僕自身も結構な数を処方してきた気がします。

そんな中、fantastic fourとしてHFrEFに対する明確なエビデンスが出たため、HFrEF患者におけるSGLT-2阻害薬の副次的な効果を評価した論文も読んでみたくなりました。

痩せている方や高齢者では気をつけてはいますが、SGLT-2阻害薬を使う時には、常々羸痩との関連を心配しながら処方していました。

 

今回の論文はレクチャーでも提示されていたので、レクチャーの内容の理解を深めるためにも読んでみました。

 

【今回の論文】

Sodium–glucose cotransporter 2 inhibitors influence skeletal muscle pathology in patients with heart failure and reduced ejection fraction

です。

PubMedのページはこちら👇

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38468429/

 

【イントロダクション】

心不全および駆出率の低下(HFrEF)の患者は、症状の負担が高く、生活の質が低く、生存率が低くなる

・SGLT-2iは、2型糖尿病の有無にかかわらずHFrEFを有する患者の心血管死および入院のリスクを低下させる

・SGLT2-iを服用しているHFrEF患者では、抗萎縮作用、代謝促進作用、および抗炎症作用により、骨格筋の病状が少なくなるという仮説を立てた

・マウス単独実験を行い、SGLT2iの筋肉への影響は種を超えて保存されるという仮説を立てた

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【方法】

・HErEFの男性28人で、SGLT2-i内服群(12人) vs SGLT2-i非内服群(16人)で比較

・内服群はダパグリフロジン(フォシーガ®)またはエンパグリフロジン(ジャディアンス®)を内服

・大胸筋からの骨格筋生検で評価

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【結論】

・SGLT2i患者では筋線維のサイズが17%高くなる傾向(図1B)

・HFrEFでも筋肉の損傷-修復サイクルが発生する可能性があることを示している

・SGLT2iを服用している患者では、骨格筋におけるSGLT1とSGLT2の両方の発現が低いことが検出された

 

【気になったポイント】

・著者がLimitationとして記載していましたが、

 ①単一施設、②男性に限定、③サンプル数が少ない、という3点は多いに気になりました

 つまり、現時点では60代の男性では有効そうという情報しかない事になりそうです

・また、患者背景のBMIが平均値29とかなり肥満傾向な点が気になります

 というのも、羸痩の心配が低いからです

 しかも、むしろ痩せた方が動けるようになって、動ける分筋力も上がるのかもしれません。

 (そこまで検討はされていませんが)

・そもそも日本人が含まれていない検討ですが、日本人の60代男性でBMI29の男性はそこまでいないような気がします

・とは言え、細かい条件を除けば、人間でもマウスでもSGLT-2阻害薬内服に伴い約20%の筋繊維の増大が認められるのは面白い情報です

・闇雲に痩せる、羸痩が進む、と恐れる必要はないのかもしれません

論文読解:NEJM -Crazy-Paving Pattern in Pulmonary Sarcoidosis-

いくつかの論文には、Image Caseなどの画像をもとにA4 1枚で作成されている短い症例報告があります。

NEJMなどの世界的に格式の高い雑誌でもそれらのタイプの論文は存在し、比較的に簡単読めますが勉強になる知識が得られるためたまに目を通しています。

 

今回は、NEJMから2024年2月29日のImage Caseを一本。

論文はこちら👉

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm2308650

【タイトル】

Crazy-Paving Pattern in Pulmonary Sarcoidosis

【症例/病名】

28歳女性、肺サルコイドーシス

【画像】

【内容】

・Crasy pavingパターンを呈した肺サルコイドーシス
非喫煙者の28歳女性、6ヶ月続く空咳で受診
・採血検査でACE-I 80IU/L
・TBLBでは非乾酪性肉芽腫
・鑑別は肺胞タンパク症、ARDS、PCP、サルコイドーシスになる。
・PSLで加療開始して、漸減をしていき6ヶ月間でステロイドは中止となった
・1年後になっても再発の兆候は現れていない

 

【感想】

医師国家試験的にはCrasy pavingパターンといえば肺胞蛋白症になる。

しかし、実臨床はそんな単純なものではないなと日々感じています。

 

この画像を見た際に感じたことは小葉間隔壁の肥厚が随分と目立つな、という印象で、よく目にするのは、心不全での画像ですが、胸水もなく違和感のある画像というのが正直な印象でした。一方で、air trappingのような明るい肺野がモザイク状に認められており、気道/気流を阻害する何かがあるようにも見えました。

小葉間隔壁肥厚自体は、肺内リンパ管のうっ滞や肺静脈路のうっ滞を示唆する所見になるため、リンパ路が障害されれば十分あり得る画像という印象です。

そういう意味では、リンパ路にも病態が生じるリンパ腫で似たような画像を呈する報告を目にしたことはあります。病理も含めると結果は比較的単純ではありますが、肺野の画像読影は難しいなと改めて感じさせられました。

論文読解:尿路感染症とオムツパッド

【きっかけ】

先日、定期的に訪問をしている施設のスタッフから

『入所者はオムツなので感染症が心配です。』というお話をいただきました。

 

我々総合内科医は、確かに感染症関連の相談もよく受ける立場ですし、院内感染や耐性菌などにも目を光らせているつもりです。元来、尿道カテーテル留置は尿路感染症のリスクとされており、確かに不要な尿道カテーテルを早期に抜去することで感染症予防を行っております。では、オムツ内排泄がどの程度尿路感染症に影響を与えるのかは理解できているのか、、、。

感覚的には、感染リスクと思っていましたが、文献的評価はしたことがなかったので1本論文を読んでみました。

 

【論文】

Absorbent incontinence pad use and the association with urinary tract infection and frailty:A retrospective cohort study.

 2023年12月に発刊されたデンマークの看護研究ジャーナルのものになります。

 論文のPDFはこちら👉https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666142X23000152?ref=cra_js_challenge&fr=RR-1

 

【患者背景/目的】

・65歳以上の1958人の患者

・急性期疾患で入院

・急性入院時の吸収性オムツパッドの使用と尿路感染症の関連を評価

 

【結果】

・入院前背景として、吸収性オムツパッドを使用していると尿路感染症で入院する確率が高い(オッズ比 2.00)

・重度のフレイルがあると、入院中にオムツパッドを使用するようになる可能性が高った(オッズ比 1.57)

・入院中にオムツパッドを使用するようになった患者の院内発症尿路感染症のリスクが高い(オッズ比 4.28)

 

【個人的な解説】

65歳以上の成人では、尿失禁などを背景に吸水性オムツパッドを使用することが多く、陰部の汚染に伴う尿路感染症のリスクが指摘されている。実感としても、論文の記載としても入院に際して、オムツ排泄となる患者さんは多く、入院後48時間以上経過して発症した感染症を院内感染症として、吸水性オムツパッド使用と院内発症尿路感染症の関連性を評価した後ろ向きコホート研究です。

 

サンプルサイズは十分(1482人が必要と本文記載)です。

ただし、除外要件で最終解析時には678人まで減っている点は要注意です。

一方で、除外要件は結構厳しいため、除外された後の要件で考えると非常に限定的である一方評価として価値の高い内容とも思えます。

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表5が最終的な評価として有用です。

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新規に入院中に吸水オムツパッドを使用するようになると、尿路感染症を発症頻度は2倍になる(77% vs 38%)。オッズ比としては、入院中にオムツパッドを使用するようになった患者の院内発症尿路感染症のリスクはオッズ比 4.28倍になる。

 

そのオムツ使用になる頻度はというと、今回の研究で入院に伴いオムツパッドを使用していなかった患者の50%が新規にオムツパッドを使用するようになっていることも判明している(635人/1250人=50.8%)。特に、重度の介助が必要になったり、フレイルが進行しているとより、オムツ排泄になる頻度は2倍以上になっている(54% vs 22%)となっている。また、表での記載はありませんが、吸水オムツパッド常用使用(full time user)の11%が尿路感染症を発症したのに対して、一時的なオムツパッド使用者では2%が尿路感染症を発症と記載されています。

 

以上より、介助を要するほどの急性期入院が相当なリスクになる、ことがわかったりました。また、もしオムツパッド使用が必要な場合でも、常時使用よりは一時的な短期使用の方がよいと思われます。

 

【気になる点】

ただし、ちょっと気にある点があります。

表2をよくみますと、尿路感染症発症の割合は

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・オムツパッド使用:289人/703人=41.1%

尿道カテーテル留置:33人/92人=35.9%

・トイレ排泄:223人/611人=36.5%

となっています。

オムツ排泄 > トイレ排泄 > 尿道カテーテル留置、の順で割合が高いことになります。

これは、なんとも実臨床の感覚とはズレている気がしてしまいます。

カテーテルが一番リスクが高い気がするのですが、、、。

交通外傷に注意な血液型は?

【背景】

救急外来に交通外傷の患者さんが搬送されてきました。

上司が、「よかったね、この人は助かりそうだよ。O型は予後が悪いからね。」、と言っていました。

なぜ???

 

【疑問】

交通外傷においてO型は予後が悪いのか?

 

【答え】

外傷では出血リスクからもO型の予後が不良な傾向であるが、鈍的外傷ではAB型の予後も不良かもしれない。

 

【説明】

そもそもそんなマニアックな話をまとめている文献などあるのだろうか、、、。

検索をしてみると、気になる文献が2つ検索されました。

文献①:The impact of blood type O on mortality of severe trauma patients: a retrospective observational study, 2018.

 元論文はこちら👉https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5930809/pdf/13054_2018_Article_2022.pdf

この論文は2018年に発表された日本の論文で、2つの三次救急センターでの症例を後ろ向きに観察研究しております。患者数は901人と結構な人数で検討されています。ABO 血液型は止血に大きな影響を与えるが、出血は外傷患者の主な死因でもあるため、後ろ向き観察研究で予後を評価した研究です。

この背景情報の背景には、O型ではvon Willbrand因子が25-30%少なく、出血リスクが高いという報告が元になっているようです。

 

対象患者は、傷害重症度スコア≧15の患者です。

除外基準は15歳未満、病院到着時心停止、生存不能な損傷を負っている、抗凝固薬/抗血小板薬内服中の4点としたようです。

傷害重症度スコアなるものは、あまり総合内科医には耳慣れないスコアではありますが、市立砺波総合病院のHPに分かりやすく載っていました。

HPはこちら👉外傷における重症度評価と予後予測 |救急部 集中治療・災害医療部|診療科|診療科・部門のご案内|市立砺波総合病院

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また、AISのコードに関するザッとした例は厚生労働省のHPにありました。

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15点になりそうなものは、頭蓋骨の単純骨折+肋骨2本骨折+大腿骨解放骨折で17点になります。

確かに重症感が強いです。

割り付けられた患者の血液型はO型は284人(32%)、A型は285人 (32%)、B 型は209(23%)、AB型は123人(13%)でした。

 

主要アウトカムは院内全死亡(原因問わず)

副次アウトカムは、原因別の院内死亡率、非人工呼吸器使用日数、輸血単位数

としたようです。

 

結果としては、

O型は全死亡に対する調整後オッズ比は2.86

 失血死に対する調整後オッズ比は2.55
・有意差はないものの、他の血液型に比してO型では輸血単位数が多い傾向

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確かに、O型は院内全死亡率が高い事が示されています。

 

また、著者たちは2021年に、12施設で2008年〜2018年の10年間で再度データを取り直してもいます。

文献②:The impact of blood type on the mortality of patients with severe abdominal trauma: a multicenter observational study, 2021.

 元論文のPDFはこちら👉https://www.nature.com/articles/s41598-021-95443-3.pdf

 

割り付けられた患者の血液型はO型は288人(31%)、A型は345人 (38%)、B 型は186(20%)、AB型は101人(11%)と少し変わりましたが、結果としてO型が院内全死亡率が高かったです。

こちらの方が、A型が40%、O型が30%、B型が20%、AB型が10%とされる日本人の一般人口に比率も近い印象です。

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では、海外の報告はどうなっているでしょうか。

文献③:The association of ABO blood groups and trauma outcomes: A retrospective analysis of 3779 patients, 2021.

 元論文はこちら👉The association of ABO blood groups and trauma outcomes: A retrospective analysis of 3779 patients - PMC


こちらは、単一施設ですが、3779人もの患者で評価をしております。

一方で、患者背景をみると、ISSの中央値が10程度であり、日本の報告よりも比較的軽症である事が分かります。

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また、日本と違い鋭的損傷と鈍的損傷を分けて死亡率を評価しております。

まずは、鋭的損傷ですが、やはりO型の予後不良が示されております。

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一方、鈍的損傷ですが、ここまで一貫して予後良好であったAB型の予後が不良という結果になりました。

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DISCCUSIONでは、鋭的損傷は出血、鈍的外傷は凝固異常との関連が示唆され、かえって凝固因子が十分にある事が鈍的損傷によるAB型の予後を悪化させる要因ではないかと記載されている。

 

 

現時点では、出血リスクを加味して考えると、外傷によるO型患者の予後不良という事は揺るぎがなさそうであるが、鈍的外傷など状況ではAB型の予後が不良になる可能性もある。

僕はA型なのですが、僕はある意味どっちでもない存在のようです。

本研究は外傷ですが、手術やお産などでも同様の検討がなされていそうな気もします。

また、時間があれば探してみたいと思います。

痙攣発作後の乳酸値フォローアップはいつ行う?

【背景】

救急外来に痙攣発作を疑う患者さんが搬送されてきました。

血液ガスでpH 7.22乳酸値 8.2mmol/Lでした。

上司が、「2時間後に、血液ガスを再検しようか」、と言っていました。

なぜ???

 

【疑問】

痙攣発作における乳酸値上昇はどれぐらいで改善するか?

 

【答え】

2時間後のフォローアップではまだ早いかもしれない

 

【説明】

①なぜ乳酸値が上昇する

②文献検索をしてみる

③まとめてみる

 の順で進めていきます。

 

①なぜ乳酸値が上昇する

痙攣は激しい筋肉の収縮を伴うが、その際に痙攣に伴う呼吸停止や酸素供給を超える激しい筋収縮に伴い、嫌気的な代謝が行われる。その結果、グルコースミトコンドリアのTCA回路を介した好気的な代謝ではなく、嫌気的な代謝の産物である乳酸へと変化していく。

その結果、痙攣後には血中の乳酸値が上昇する、とされている。

痙攣の評価として、血液ガス測定による乳酸値評価は、主に救急現場をはじめとする臨床現場ではよく行われている。

 

確かに、初期研修の時分からそう習ったし、それを行ってきたが・・・。

その意義と評価方法を文献的に検索して考えた記憶はない。

医療あるあるの「教科書+耳学問」で済ませていたような気がする。

また、感覚的に「2時間で回復するよな」という印象はあるがその根拠を考えたことはなかった。

 

②文献検索をしてみる

ということで、まずは痙攣発作と乳酸測定の意義を調べてみると、下の文献①がよい該当の論文と思われる。

文献①:The Use of Lactate Levels to Distinguish Grand Mal Seizures From Syncope in Patients Presenting With Loss of Consciousness: Annals of Emergency Medicine, 2012.

 元論文PDFはこちら☞

https://www.annemergmed.com/action/showPdf?pii=S0196-0644%2812%2901103-1

この論文のポイントを3つに絞ると、

・痙攣発作と失神では発症1.5時間以内では、有意に痙攣発作で乳酸値が高い
・乳酸値 3.5mmol/L以上では90%以上が発作の診断に至った
・3時間後には発作の患者でも乳酸値は2mmol/L以下になっていた

 

 痙攣では失神と比較し優位に乳酸値が高値になる傾向であり、

 その乳酸値も 3.5mmol/L以上であればより可能性が高い。

  と言えそうです。

 

では、本題の何時間後の血液ガス検査フォローアップがよいのか、を調べていくと文献②もよさそうです。

文献②:Acute metabolic effects of tonic‐clonic seizures: Epilepsia Open, 2019.

  元論文PDFはこちら☞

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6885665/pdf/EPI4-4-0.pdf

この論文のポイントをまとめると、
・32人の患者、39の強直間代発作からサンプリング
・乳酸は強直間代性痙攣後、1時間では50%減少、2時間後にはベースラインレベルまで低下
・強直間代性痙攣の90%で乳酸の上昇で、2.5mmol/Lを超えるのが94.6%
アンモニアも強直間代性痙攣後、2時間後にはベースラインレベルまで低下
 
 n数が多いとまでは言えませんが、痙攣後の各マーカーの時間経過を示したデータが記載されているため、経過を考える上では非常に参考になります。
 ただ、カットオフラインを2.5mmol/Lと設定しており、実臨床で参考とする2.0mmol/Lよりも高めのラインで乳酸高値を判定されているようです。一方で、それだけのラインを設定しても、強直間代性痙攣発作では94.6%が乳酸値上昇を認めており、痙攣発作での乳酸高値の傾向を後押ししてくれる情報でもありそうです。
 論文の記事上では、2時間後には乳酸値はベースラインまで低下したと記載されてはいますが、上記の図を見ると2時間後でも平均値は2.5mmol/L程度であるため、経過観察時間を果たして2時間としてよいのかは悩ましいです。
 

他の文献記載はどうなっているでしょうか。

追加の文献③もよさそうです。

文献③:Lactate as a diagnostic marker in transient loss of consciousness: Seizure, 2016.

  元論文PDFはこちら☞

https://www.seizure-journal.com/action/showPdf?pii=S1059-1311%2816%2930077-2

この論文の記載では、
強直間代痙攣発作における乳酸値上昇を2.45mmol/Lと定義すると88%に認めた
・強直間代痙攣発作の2時間後に採取された血液サンプルでは、乳酸値が2.5 mmol/Lを超える患者は16.7%だった

 となっております。

 2時間後で乳酸値が2.5 mmol/Lを超える患者が16.7%ということは、

 2時間後でも6人に1人は2.5mmol/Lを超えるようです。

 

③まとめてみる

3つの文献をまとめてみると

発症1.5時間以内では、失神より痙攣発作で乳酸値が上昇する

・痙攣発作では乳酸値上昇(≧2.5mmol/L)は約90%に認める

・2時間後ではベースラインに戻るとされているが、十分低下しているとも言い切れず文献によっては3時間で判定(文献①)している

 

 2時間後の評価ではまだ早い可能性があり、3時間誤判定でもよいかもしれない。

 しかし、もし痙攣発作以外の要因で乳酸値が上昇している場合、特にショックなどで生じている場合には、3時間待つのはあまり有効な対応とは言えないと思われる。

 よって、現実的には2時間以内で一度フォローアップし、正常値まで改善しない場合に3時間後のフォローアップをする方がよいと考えるのが、実臨床での対応ではないかと考える。

 

 僕自身も改めて調べてみて学びが大きかったです。

 救急外来での診療に参考にしていただけたら幸いです。

椎骨動脈解離でなぜ吃逆が出るのか?

【背景】

めまいと頸部痛を訴える患者さんが救急外来に搬入されました。

上司が「吃逆もあるし、椎骨動脈解離は精査した方がいいね」と言っていました。

なぜ???

 

【疑問】

椎骨動脈解離でなぜ吃逆が出るのか?

 

【答え】

椎骨動脈解離では、吃逆の中枢にあたる延髄に梗塞病変を生じやすいから

 

【説明】

そもそも吃逆とはしゃっくりの事である。

48時間以内に治るものを良性吃逆発作と呼ぶ。

48時間以上1ヶ月以内のものを持続性吃逆、1ヶ月を超えるものを難治性吃逆と呼ぶ。

 

発症機序を考える際には、原因として中枢性末梢性を考える事になる。

 中枢性:延髄

 末梢性:迷走神経、横隔膜神経、横隔膜

と大きく分ける事ができる。

末梢性としては、頚部病変、胸腔病変、横隔膜病変、肝臓病変などが考えられる。

今回テーマとなるのは中枢性である延髄病変によるものである。

 

実際には舌咽神経咽頭枝からの刺激が、延髄孤束核を経て、延髄網様体に達する。

ここから、迷走神経/横隔神経の遠心路に刺激を送る。

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図が逆さまですが、我々医療者は仰向けの画像に慣れているので、この向きの方が分かりやすいです。

網様体はやや背側の中央部分に存在します。

 

では、そもそも延髄の血行支配はどうなっているか?

最も分かりやすいの『画像診断Cafe』の図ではないかと思っている。

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そうです、網様体は主に椎骨動脈による血行支配を受けている。

少し見にくいが立体的な図も存在する。

逆さまにしているためかなり見にくいですが、これは非常に理解を深める事に繋がる図だと思う。

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一応、逆さまにする前の画像はこちら

f:id:Shun19:20240208020907j:image

 

もちろん、アノマリーはあり、主にと思うと理解しやすい。

 

椎骨動脈解離が生じると、解離に伴い血液灌流障害が生じて虚血になる。

いわゆる脳幹梗塞になる。

この際に生じる病変が、上記の延髄網様体に生じた場合には吃逆が出現するものと考えられる。

 

また、Wallenberg症候群(延髄外側症候群:舌咽神経核を含むため)で生じる場合の吃逆は約28%とされているようで、吃逆の出現は嚥下機能障害や構音障害と有意な相関があるらしい。

確かに、舌咽神経核が障害されると考えると納得できる。

 

 

最後に、蛇足ではあるが自分自身の経験としては、

吃逆をきっかけに、視神経脊髄炎が診断された患者さんや大腸癌肝転移が診断された患者さんがおり、吃逆といえど侮れないと考えてしまう。

 

【参考文献】

1. 画像診断Cafe

2. 入江研一,他. 頭蓋内椎骨動脈解離における延髄梗塞の特徴と機能的転帰; 2022.

3. 植村順一,他. 頭部 MRI による延髄梗塞における難治性吃逆責任病巣の検討; 2013.

4. 藤島一郎. Wallenberg症候群における嚥下障害と付随する症候; 2009.

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